高校球児の暑い夏が、今年も訪れました。毎年、甲子園を目指して、ひたむきに頑張る選手たちですが、甲子園の土を踏むのは並大抵の事ではありません。筑陽学園の野球部も、残念ながら甲子園出場には至りませんでした。しかし、夏の予選を終えた選手の表情には、生き生きとした清々しい笑顔が輝きます。
キャプテン
3年生 中園雄一郎 6番 キャッチャー(大原中学校卒業)
甲子園には行けず悔しい思いはありますが、悔いはありません。精一杯の事をしてきましたから。
キャプテンになってから1、2ヶ月を過ぎた頃に、辞めたいと思った事があるんです。試合には勝てないし、自分の居場所が見つけられなくて。その時の僕の支えとなったのは、僕のためにご飯を作ってくれていた祖母の姿です。朝早くから弁当の準備をしてくれ、夜は、部活で帰りが遅い僕のために、食事を作って待っていてくれて。そういう自分のために時間を費やしてくれた事を思うと「逃げちゃ行けない」と強く思いましたね。
将来は、高校で野球の監督をするのが夢です。今の僕と同じように甲子園を目指す選手と共に、甲子園に行きたいんです。野球は、一つの目標に対して、みんなで一致団結して頑張っていく所が好きです。きつい事が多いじゃないですか、高校野球って(笑)でも、栄光を勝ち取るためには、逃げてはだめなんです。
逃げないために、周りで声をかけて頑張っていくところに、僕は高校野球の魅力を感じました。
副キャプテン
3年生 井上彰吾(平野中学校出身) 3番 ライト
僕が、一番印象に残っている試合があるんです。高校1年生の時で、まだベンチにも入っていない時、夏の甲子園予選で、先輩たちが、必死にボールを追って、抜けたらさよならという時に、センターの選手の頭を大きく越えそうなボールを、懸命に後ろに追いかけて取ったりして。そのとき、試合を見て初めて泣きましたね。
これまで、勉強も両立しました。体育抜きなら(笑)、日本史や世界史などの暗記する教科が得意です。顧問の江口先生からは「当たり前の事を当たり前にする」と教わっていたので、授業中に、しっかり授業を受けていました。 練習きつくて、何回も練習を妥協しそうになるんですけど、そういうときに、最後に後悔しないためにも、妥協しないでやっていけば、最後に笑ってやれるんで、後輩にも、そうなって欲しいです。
5年前、筑陽学園の野球部を甲子園へと導いた江口祐司先生。 江口先生は、大リーグでも活躍した、元プロ野球選手の新庄剛選手を育てた監督でもあります。生徒たちに、どのような指導をなさっているのでしょうか。
私は難しい事を教える事はできません。ただ、必ず一つだけ教える事があります。それは『当たり前の事を当たり前にできないとだめだ』ということです。これは、野球に対しても何に対しても、自分自身に対してもそうです。 勉強するときは勉強をする。それに、部活の練習に疲れて居眠りしてしまうような生徒は、体力や集中力に欠け、試合に出ても途中で打てないし、走れなくなるので、使えませんしね。 野球は、試合中、ランナーを見ながら守らないといけないし、逆にバッターはランナーを見ていないといけないんです。相手が今、何を考えているのかを読みとり、瞬時に自分が何をすべきかを考えて行動する。ほんの些細な事にも気づき、四方八方にアンテナを張り巡らすことができる選手が、チームを組んでこそ勝てるんです。 そのためには『自分の置かれた状況から、何をすべきか考えて、当たり前にやる』ことができてこそなんです。
私は、人は成長するときに『限界を超えないと伸びない』と考えています。人は自分で限界を作り、これ以上はしないでいいだろうと自分で判断します。 「闘いはきついんだ。苦しいんだ。楽しいもんじゃない」というのを直視し、全面で受け入れられるようになって、自分が作った限界を乗り越えて強くなるんです。限界を超える事を教えるのは、とてもきついですよ。それは私自身も限界を超えるという事ですから。ある時、周りの人に言われた事があります。「生徒より、先生の方が倒れますよ。」って。(笑)野球部の選手は、私を頼って来てくれています。だからこそ、その思いに応えたいんです。私の限界を超えさせてくれるのは、何より、選手(生徒)たちが頑張っている姿です。
1000日間(高校3年間)は鍛錬しますが、勝負は一瞬です。 野球(部活)、勉強、遊びと、どれも大切だと思います。しかし、一番になる、勝負に勝つという事を目指している時は、勝負への執着心や、勝つ事に対して貪欲になり、突き詰めて考え、今、この瞬間に何をすべきかがわかって、人間としても成長すると思うんです。 今年の夏は甲子園に行けませんでした。甲子園に行く実力は十分にあって、そのチャンスを生かせなかったのが、悔しくてしかたありません。 新しいチームも動き出し、来年こそは甲子園への道を掴みたいですね。
編集後記
高校生という、様々な可能性を開花させていく時期に、何か打ち込めるものがあるというのは、これからの人生に大きく影響していくように思います。そして、その選手(生徒)達が頑張る姿は、周囲の私たちにも、努力する事の素晴らしさを教えてくれます。